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小出恵介が見た、精神科医療における地域支援の未来
ゲスト:小出恵介さん
2024.09.24
精神科医療における地域支援の未来について語るCROSS TALK。第一回目は俳優の小出恵介さんが、セノーテ訪問看護ステーションの系列事業である障がい者自立支援グループホームを訪問。当社代表と精神科医療の課題やこれからについて対談いただきました。
笹山銀次郎GINJIRO SASAYAMA
1978年、福岡県に生まれ、介護職の経験を通じ障がい者福祉に興味を持ち2008年11月にシルバーメディカル株式会社を設立。その後、精神科看護の分野にも進出し、2016年10月にはFusion株式会社を設立し、セノーテ訪問看護ステーションを開設。現在では6県に15の拠点を展開し、全国へのさらなる拡大を目指しています。また、BGMグループをはじめ、他5社の代表取締役・理事長も務めています。
「小さな一をひとつずつ」という理念を大切にし、地域に根ざした福祉と医療の発展に取り組み、患者様や利用者様一人ひとりに寄り添ったケアを提供し続けています。
目次
回復期・慢性期の精神科・心療内科患者を支えるために
支援施設のイメージを変える
福岡県にある精神障がい者自立支援グループホーム「しろがねプレミア」 を訪ねた小出恵介さん。自然に囲まれた木造建築の佇まいにまず驚き、庭での食事会を楽しむ入居者と笑顔で会話。その後、セノーテ(BGMグループ)代表の笹山による案内のもと、施設を見学することになりました。
板張りの天井に、壁の一部がグリーンで彩色されたエントランスに足を踏み入れ「すごく広いし、天井も高くて開放感がありますね。 非常に洗練された感じがします」と声を上げた小出さん。
木の温もりを感じる心やすらぐ雰囲気の施設内は、車椅子の方でも不自由なく生活できるように全面バリアフリーとなっています。オープンエアで寛げる中庭を抜けての食堂兼談話室から、6畳の広さの個室(全20室)、庭の焚き火エリア へと小出さんを案内した笹山は「多くの方が無意識に抱かれている、精神障がい者支援施設への暗いイメージを払拭したい思いから、施設のデザイン性にもこだわりました」と想いを語りました。
また、精神障がい者の方が退院後に地域で暮らすための場所として、自分らしく伸び伸びと過ごせる環境を提供したいという笹山の考えに小出さんも共感。「ここは非常に居心地がいいというか、心が休まる感じもします」という感想を述べました。
精神障がい者の社会復帰を支援するために
施設を見学しながら、本格的に対談を始めた2人。 まず小出さんより精神科病院と精神障がい者自立支援グループホームの違いについて質問があり、さらに精神障がい者支援の課題について対話が広がっていきました。
精神障がい者自立支援グループホームとは、主に精神科病院での入院を終えた回復期・慢性期の方が地域生活へ移行するための居住施設です。「しろがねプレミア」をはじめとするBGMグループの施設では、就労による社会復帰を望む入居者に向けて農業生産活動を通じた就労継続支援B型事業を実施。施設には農園が併設されており、入居者は日中の生産活動を通じて作物を育てる喜びや、地域の皆さんに販売することで収入を得る経済活動を経験できるのです。
小出さんも農園を訪れ、小松菜の収穫を体験しました。新鮮な野菜をかじって「採れたてだとこんなに味が違うんですね、美味しい!」と声を上げた小出さん。笹山も「この小松菜は、キムチにして販売する予定なんです」と、入居者が社会とのつながりを持つことで、社会復帰できるよう支援に力を入れていることを伝えました。
温室で愛情たっぷりに育てられた小松菜。収穫時期を見極め、素早く収穫。新鮮な小松菜をすぐにキムチにするので食感はシャキシャキ!程よい辛さが小松菜との相性抜群!
精神科患者がなぜ社会復帰しにくいのか。それは、病院での治療後に社会に戻り、地域で暮らしながら復帰をめざす枠組みがまだまだ少ないからです。
対談の中で「日本の精神科医療では長期入院者の多さが問題になっています」と説明した笹山。
日本では1年以上入院している精神障がい者が約20万人存在し、 さらに10万人の方が5年以上入院しています。欧米をはじめとする先進国との平均在院日数を比較しても、先進国の28日に対して日本は270日。退院がなかなか進まない実態が浮き彫りになっているのです。
退院が進まない要因のひとつが、退院後の受け皿が少ないことです。グループホームをはじめとする居住型支援施設も受け皿のひとつなのですが、全国的にもまだまだ数が足りません。
社会問題と呼ばれるこの問題に対して、施設以外の支援のあり方が必要であることを小出さんに説明した笹山は、「この課題を解決するために、BGMグループでは精神科に特化した訪問看護に力を入れている」ことを紹介しました。
地域医療の受け皿となる訪問看護事業の全国展開を進める
福岡から全国へ、訪問看護ステーションを展開
BGMグループ(本部:福岡県田川市)が運営する「セノーテ訪問看護ステーション」は、精神科に特化した訪問看護です。グループホームなどの既存事業で培った人材とノウハウをもとに2018年2月に創業。福岡県・沖縄県・山口県・広島県、愛知県、愛媛県に15拠点を展開し、2024年度中には神奈川県、宮崎県にもステーション開設が決定しています。
セノーテ訪問看護ステーションの特徴は、専門性が高い「精神科認定看護師」「精神看護専門看護師」が中心となり、正看護師を中心とするスタッフの教育にあたっていることです。病院との連携はもちろん行政や地域の福祉施設と連携し、退院して地域で暮らしながら回復期・慢性期を過ごしたい利用者のケアを行っています。また統合失調症や自閉症などの精神障害はもちろん、問題飲酒、うつ病や産後うつ、幼児退行、発達障害などにお悩みの方のサポートにも対応しています。
精神やこころの問題は、病態もご本人が抱える事情も千差万別です。精神科に特化した訪問看護事業者であるセノーテは、服薬確認などの基本的な日常生活ケアはもちろんのこと、利用者の変化を見逃さず、適切な心のケアや医師へのフィードバックを高いレベルで実施。利用者一人ひとりの事情に沿った適切なケアを提供しています。また多拠点展開する強みを活かし、拠点ごとの支援事例を定期的に共有してデータベース化することで、全スタッフが適切な支援を素早く行える体制を整えています。
「一人でも多くの方が、地域で安心して自分らしく生活できるよう貢献することがBGMグループの願いです。そのためにもセノーテ訪問看護ステーションを全国展開することで、質の高い訪問看護ネットワークを広げ、長期入院の課題や受け皿に悩む地域に貢献したいと考えています」と今後の展望を語る笹山を、小出さんは真摯な眼差しで見つめ、静かにうなずきました。
人の再生や前を向いて生きていく上で必要なこと
小出恵介さんが考える、人と助け・支え合うことによる再生
精神科医療の課題から、BGMグループの訪問看護への取り組みについて話題が広がった今回の対談。「しろがねプレミアム」の庭で焚き火にあたりながら小出さんは、自身の体験を踏まえ、しみじみとこう語りました。
「僕個人もいろんな経験がありまして。その過程で感じたのが、人がお互いに助け合ったり支え合ったりするということが、人が再生したり前を向いて生きていく上で必要だ、ということです。
自分が頑張ってもどうにもできない、どうにもならないことを前にすると、本当にいろんな意味で窮地にさらされてしまいます。そうするともっともっと追い詰められ、こころも身体も保てなくなってしまう。
そんな辛い時は、ここのような自分とゆっくり向き合える場所に身を置いて、焦らず少しずつで良いんだと、自分自身を労わることも大切なのかなと考えています」
またそのためには、受け入れてくれる環境と人…自分が伸び伸び過ごせる場所があり、専門知識のあるサポーターが身近にいる安心が重要だとも語った小出さん。
「今日は非常に感銘を受けました。素敵な経験をありがとうございます」と笹山と握手し、対談を終えました。
CROSS TALKではこれからも著名人との対談などを通して、こころの地域医療の大切さや、訪問看護事業による地域貢献について発信していきます。