こんにちは。 セノーテ訪問看護福岡東ステーションの寺中です。
私たちは日々、「〜したいな」という気持ちと「〜しなきゃ」という気持ちのバランスをとりつつ生活しています。
「あと5分寝ていたいな…けど起きなきゃ…」といった経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
このバランスをとっているのは自我と呼ばれる部分であり、自我には防衛機制という調整機能が備わっています。
今回は防衛機制、そして防衛機制のひとつである幼児退行(退行)に関してお話します。
※今回の記事は2019年8月29日掲載分のリライトです。
防衛機制とは
防衛機制とは、不安や受け入れたくない現実といった心理的ストレスが生じた際に、自分の心を守るために働く無意識の反応であり、誰にでも備わっている自我機能のひとつです。
しかし、精神的な危機にある方においては、心のバランスを保つ働きである防衛機制が適切に機能せず、大きすぎるストレスに対して、周囲が理解し難い反応をみせる場面があります。特に統合失調症の方ですと、自我の脆さから容易に心のバランスを崩し、未熟な防衛機制が働きやすいです。
防衛機制のひとつとしての幼児退行
防衛機制はいくつかありますが、ここでは、その中の「幼児退行」に関してお話したいと思います。
一般に幼児退行した状態として
- 自分の思う通りにならないことに対して急に大きな声で怒鳴る、手が出る。
- 赤ちゃん返りした話し方になる。
- 閉じこもってひたすら眠る。 などがあります。
幼児退行は、過去の発達段階に戻ることにより欲求を満たすこと、乳児期、幼児期など、両親や兄弟に守られていた頃、楽しかった頃に戻り心のエネルギーを回復するといった無意識的な反応です。 そのため、上述した赤ちゃん返りなど子どものようなふるまいが特徴的と言えますが、防衛機制として自分の身を守るための反応が、周囲から「甘え」と判断されてしまい、理解されないことに苦しみや悲しみを感じるという方もおられます。
【事例】幼児退行が生じている方への看護
対象者は、壮年期女性、ペットと一緒に暮らしている方であり、慢性期の統合失調症を抱えていました。幻聴や被害妄想が周囲への疑いや、敵か味方かの考えに繋がり、自閉的な生活を送られていました。
対人関係においては、相手の反応が本人の意図するものでない場合には、怒鳴る、泣くにかけて、要求が通らないとむっとした反応をするなど、いわば万能感も見受けられ、非言語的コミュニケーションが目立つ幼児退行(病的退行)が伺える方でした。
看護としてはまず、「味方であること、力になりたいこと」を伝えることから始めました。
万能感に対しては、本人が叶えてほしいこと、そこに対して看護師としてできることと自分自身で行うことをはっきりさせ、線引きをする際に、どちらかの一方的な押し付けや我慢にならないよう丁寧な関わりを心がけました。
関係性を築きつつ、対話を繰り返す中で、幼少期の体験から「自分は病気だから何も出来ない」という自信のなさの表出がありました。本人が持っておられる強みへの気づきを促し、エンパワメントを行いました。
将来の夢として、「ペットと一緒に家で暮らしていきたい」という希望があったので、そこに向けた小さな目標を一緒に考え、焦らず成功体験を重ねていきました。
退行している方に対してはまず、安心できる存在であることを伝え、どのような危機に対して働いた防衛機制なのか、生育歴からその方がどのような発達を遂げられてきたのか、どの発達段階まで退行しているのかをアセスメントし、その発達段階に応じた看護が必要と考えます。
退行する以前にご本人が出来ていた生活と照らし合わせ、目標を大きく設定せず、その方がまず、ほんの少しの努力から達成できる「ショートゴール」を立て、賞賛を重ねながら心の回復を目指すことが重要と考えます。
さいごに
退行は未熟な防衛機制と一般的に言われますが、普段生活していく中で、私たちも退行を無意識に取り入れながら自分をコントロールしている場合があります。
例えば、日々の社会的なストレスから距離をおき、遊園地で年齢を忘れて子どものようにはしゃぐこと、子どもの頃好きだった本に没頭したりすることがそうですね。
動的な例と静的な例として挙げてみましたが、いずれも自我により適切に制御されている、健康的退行といえるのではないでしょうか。
長くなりましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。
セノーテ訪問看護福岡東ステーション 寺中 祐人